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バレエで話す人々

日本語が一言もできないフィンランド人を、フィンランド語はもとより誰も英語を話す人もいないバレエ教室に置き去りにして帰ってきた。

ベンラは職場に1ヶ月の予定で滞在していて、京都市内のウイークリーマンションに住んでいるのだが、1ヶ月の間にもバレエに通うのだといって、道を歩いていてバレエ教室を自分で見つけてきた。そして職場の学生に頼んで電話をして問い合わせてもらい、体験レッスンにその学生がついていくことができなかったので私にお鉢が回ってきたのである。職場に滞在する外国人の世話をするのは私の仕事の一環なのだが、さすがに勝手にバレエに行くのに付き添うのには残業代は出ない。しかし、私も留学していたときに自分が世話になった分を順繰りに返す番なのだろう。次はフィンランドに来た人にベンラが手を貸してあげればたぶん世界がうまくまわる。

ベンラは北欧系の長身の美人なので、教室に入っていくと小さなバレリーナたちがびっくりして見上げている。レッスンのお金はいついくら払えばいいのか、私は必要最低限のことだけを助手みたいな人に聞いて本人にはI'll talk to you later.とだけ言って、置いて帰ってきた。

ベンラは持参したレオタードに着替えて、練習用のバーの一角を高校生ぐらいの女の子たちが場所を空けているところに入っていった。お互いに全くことばは通じないのだけれど、身振りでそしてバレエで会話をしている。バレエで会話をする人が実際にいるというのがちょっとした衝撃だった。

わずか1ヶ月、全く別の目的をもって異国に滞在するときに、その国のことばも全くできないのに、道でみつけて週に2回習いに行って、コミュニケーションができるような何かをもっている人生というのはどんなのだろう。最初からそのつもりで、当たり前のようにレオタードやらトウシューズやらをもってきているベンラにも驚く。そして小さなバレリーナたちは今日いきなりやってきた長身の、本物の白鳥のように白いバレリーナのことを家に帰ってあるいは明日学校でどう話すのだろう。

少し心配がないでもなかったけれど、そのままほったらかして帰った。バレエで会話をする人々の楽しみに少しは手を貸すことができただろうか。
by warabimochi57 | 2012-11-26 22:48

謹製 さつき


by warabimochi57