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国道に出てくるばあちゃんについて

父方の祖父は私が生まれる前に亡くなったので私は祖父の顔を位牌遺影でしか知らない。長生きした祖母から聞く話は若い頃は男前で浮気に泣かされたというようなことばかりだったが位牌遺影の顔は唇を引き結び、いかにも戦前の謹厳な家長という風貌である。町議会の議長も務めたと聞くのでそれなりに人望もあったのかもしれないがその人となりについて聞く機会はあまりなかった。

先日八十近い父が子どもの頃、やんちゃ坊主に突き飛ばされて鉄棒から落ちて骨を折ったという話を聞き、車もない当時にそれからどうしたのかと聞いたところ、祖父が今の彦根市にある病院までリヤカーで連れて行ったという。大体七十年ぐらい昔の話である。そこは今車で行ったとして1時間はかかる距離にある。昔の人は鍛えられ方が違うとはいえ、骨折した子供をリヤカーに積んで往復するのは1日仕事だったに違いない。浮気の話とか、かと思えば議長さんの話しか聞いたことのなかった祖父も子供の怪我を心配する人の親だった。

たかだか七十年前に、日本の田舎はそんな風だったのだ。それで私はしばしば田舎で、結構車通りの多い国道を走っているとじいさんやばあさんが横断歩道でもなんでもないところを全く車が来るのを目にも入れずに徒歩や自転車で横切る訳がわかったような気がした。じいさんやばあさんは80年も前からそこで暮らしてきたのである。車はたかだかここ40年か50年で普及したにすぎない。ばあちゃんが車の通り道を横切っているのではなくて、ばあちゃんの通り道を車が横切っているのだった。

祖父と、祖父に遅れること40年近く経ってから彼岸に渡った祖母とにまだリヤカーで父を迎えに来ないようにと仏壇に頼んでおいた。祖母は私がひいき(昔の人は長男長女をひいきする)だったので、間違ってこっちを先に迎えに来られても困るのだが、ともあれ当分誰も迎えに来ないようによくよく頼んでおいた。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。
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by warabimochi57 | 2013-06-30 14:53 | Comments(2)

謹製 さつき


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